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大阪高等裁判所 昭和36年(う)811号 判決

被告人 園田四郎

主文

本件控訴を棄却する。

理由

所論はまず、自転車競技法第一八条が比較的軽微な内容であると認められる同条所定の罪に対し懲役刑を定めているのは、罪刑の均衡を失し、残虐な刑罰を禁ずる憲法第三六条に違反し無効であるというのである。しかし憲法第三六条の「残虐な刑罰」とは、不必要な精神的、肉体的苦痛を内容とする人道上残酷とみとめられる刑罰を意味することは、最高裁判所の判例(昭和二四年六月三〇日大法廷判決参照)の示すとおりであり、同条は所論のように軽微な犯罪に対し過大な刑罰を法定することを禁ずる趣旨ではない。かりにしかりとするも、自転車競技法第一八条が、自転車競技の施行者を一定の者に限定し、その競技に関し投票類似の行為をして財産上の利益を図る行為を禁じているのは、刑法第一八六条において常習賭博罪を罰しているのと趣旨を同じくし、偶然の事実によつて勝負を決しよつて投機的に財産上の利益を図ることは慣行となり易く、かかる行為を放任するときは健康で文化的な社会の基礎をなす勤労の美風を害するばかりでなく、はなはだしきは暴行、脅迫、殺傷等の犯罪を誘発し、公序良俗を乱すおそれがあるからであつて、これが禁止違反に対し懲役刑をもつて臨むことはむしろ適切であり、これをもつて残虐な刑罰とはとうていいうことはできない。前記第一八条が違反者を五年以下の懲役又は五〇〇、〇〇〇円以下の罰金に処することと定めたことをもつて、憲法第三六条に違反するとは当らない。次に所論は被告人に対する原判決の刑が過重であるというのであるが、被告人の同種の罪等による前科ある前歴、本件犯行の動機等記録に明らかな諸般の事情によつて考えると、原判決の刑は相当と認められる。論旨はいずれも理由がないから刑事訴訟法第三九六条により主文のとおり判決する。

(裁判官 松村寿伝夫 小川武夫 柳田俊雄)

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